■那須
■弘平
主文
原判決を破棄する。被告人を懲役三年六月に処する。
原審における未勾留日数中一〇〇日を右刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人今村憲治名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。第一事実誤認の主張について
所論は、要するに、原判決は、本件各業務上横領の事実のうち、原判示第二別紙犯罪事実一覧表3記載の事実の被害者Aが横領されたゴルフクラブの保証金預かり証書等の名義書換用書類一式(以下「証書等」という。)の被害額を時価一四〇七万七六七〇円相当と、同表9記載の事実の被害者Bが、横領された証書等の被害額を時価一四七〇万八七三八円相当と、それぞれ認定しているが、ゴルフクラブから入会承諾書が発行され、会員として登録されたA及びBについては、同人らの有するゴルフ会員権(以下「会員権」という。)のうちゴルフ場施設利用権(以下「利用権」という。)はなんら侵害されていないのであるから、被告人の横領行為により同人らに生じた被害は、会員権のうちの預託金返還請求権相当の被害(Aについて三六〇万円相当、Bについて三〇〇万円相当)のみであるにもかかわらず、同人らの被害額について前記のとおり利用権の侵害を含んだ額を認定した原判決には、事実の誤認があり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。(なお、控訴趣意のうち、理由不備及び訴訟手続の法令違反をいう点は、いずれも、その実質は右の事実誤認の主張に帰する。)
所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実の取調べの結果をも加えて検討する。
<要旨>本件のうち、原判示第二の各業務上横領の事実は、A及びBに対する横領も含め、被告人が、他に売却</要旨>した会員権の証書等を、名義書換えのため業務上保管中、被告人の経営する会社の債権者に担保として差し入れ、これを横領した事案である。
本件のように、横領した財物がゴルフ会員権の保証金預かり証書や名義書換用書類一式である場合には、横領行為による被害額を評価するに当たっては、売買された会員権の価格を基準とすることが相当である。
すなわち、本件の被害者らが購入した会員権は、いずれもいわゆる預託会員制クラブの会員権であるところ、このような会員権について発行される保証金預かり証書(その名称は「預託金証書」、「保証金預託証書」等さまざまであるが、その実質は同一である。)は有価証券とは解されないから、会員権そのものが表章されているということはできない。
しかしながら、会員権については、被告人の経営する会社のように、その売買や仲介を行う多数の業者が存在し、これらを中心として市場が形成され、流通しているところ、そこでは、会員権の売買に当たり、証書等の授受がほとんど例外なく行われており、当事者としても、証書等を会員権とほぼ同一のものと考え、これと引き替えに代金全額を先払いしていることがうかがわれるのであって、極めて重要な財産的価値を有しているものと認められる。
したがって、このような会員権売買の実態や当事者の意識に徴すると、本件のように証書等が財産犯の被害財物であるときには、会員権の価格を基準としてこれを評価することが正当であるというべきである。
関係証拠によれば、被告人は、(一)平成五年五月二一日、Aに対し、Cカントリー倶楽部の個人正会員権を一四〇七万七六七〇円(消費税分を除いた本体価格)で売却し(代金等として一四五〇万円受領)、名義書換えのため同人から証書等を預かり保管中、同年六月一五日、被告人の経営するD株式会社の株式会社Eに対する債務の譲渡担保として、これを差し入れて横領し、(二)同月一〇日、Bに対し、右倶楽部の個人正会員権を一四七〇万八七三八円(消費税分を除いた本体価格)で売却し(代金等として一五一五万円受領)、名義書換えのため同人から証書等を預かり保管中、同月三〇日、右(一)と同様Eに譲渡担保として、これを差し入れて横領した、との事実が認められる。
そして、原判決がその(補足説明)の項で指摘するように、会員権は、預託金返還請求権と利用権とに分離して考察することが可能であるが、右の事実に照らすと、A及びBの有する会員権は、被告人の横領行為により、その時点ですでに、預託金返還請求権部分はもとより、利用権部分も含めたその全体が、権利の円満な行使及び移転を妨げられたものというべきであり、同人らにはこれに相応する被害が生じたものといわざるを得ない。
もっとも、当審で取り調べたFの検察官に対する供述調書及びCカントリー倶楽部作成の会員名義変更取扱要領(写し)を含む関係証拠によれば、被告人による横領行為の後に、Cカントリー倶楽部のA及びBに対する会員資格承認手続が進められ、入会承諾書は発行されたが登録未了であることや同人らが、事実上、右倶楽部の施設を利用していることなどの事実は認められるが(ただし、右のFの検面調書等によれば、右倶楽部としては、預託金証書の提出がなく、したがって証書裏面の会員登録に関する承認印も押捺されていないことから、同人らを正規の会員としては取り扱ってはおらず、施設の利用も事実上の恩恵的措置として黙認しているに過ぎないものである。)、これらの事実は、いわば利用権の被害の事後的な仮の回復ないしはそれに準ずる事柄であって、同人らに被告人の横領行為の時点で生じた権利の侵害、被害の発生それ自体にはなんら消長を来すものではなく、被告人の業務上横領の罪責の成否、内容を左右するものではない。
そうすると、原判決が所論の指摘するA及びBの損害についてその(補足説明)の項で説示するところは、措辞不十分で必ずしも首肯できるものではないが、結論として、原判決が、同人らの被害額を会員権の価格、すなわち預託金返還請求権及び利用権の時価の合計額として前記のとおり認定したことは相当であり、原判決に所論のいうような事実の誤認はない。
なお、所論は、原判示第二別紙犯罪事実一覧表2記載の事実の被害額(時価)は「一一六五万〇四六八円」であり、同9記載の事実の被害額(時価)は「一四〇七万八七三八円」であって、原判決はこの点においても事実の誤認がある、と主張するが、関係証拠によれば、原判決が右一覧表2記載の事実の被害額(時価)を「一一六五万〇四八六円」(Gの司法警察員に対する平成五年一二月一六日付け供述調書、検甲53)と、同9記載の事実の被害額(時価)を「一四七〇万八七三八円」(同人の司法警察員に対する平成五年一二月二七日付け供述調書謄本、検甲105)と認定したことに誤りはない。
したがって、事実誤認の主張はいずれも理由がない。
第二量刑不当の主張について
所論は、要するに、被告人を懲役三年一〇月に処した原判決の量刑が重過ぎて不当である、というのである。所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて検討する。
本件は、ゴルフ会員権の売買、仲介等を業とする会社を経営する被告人が、同社の取締役であり愛人でもあったGと共謀し(原判示第一の事実)、又は単独で(原判示第二の各事実)、顧客に売却するなどした会員権に関し、名義書換えを依頼され、預かり保管中の保証金預かり証書等の名義書換用書類一式を、第三者に二重譲渡したり、会社の運転資金を借り入れていたノンバンク等の債権者に、譲渡担保として差し入れて横領した、という事案である。
被告人は、会員権を売却した顧客である被害者らが、業界でも大手といわれていた被告人の経営する会社を信頼し、名義書換えのために証書等の預託を受けたことを悪用して、横領行為に及んだもので、本件は被害者らの信頼を裏切る悪質な犯行といわなければならない。
とくに、被告人は、一時は順調であった会社の経営が、いわゆるバブル経済の崩壊に伴い、資金繰りが悪化し、多額の借り入れをしていたノンバンク等の債権者に対する担保に窮したことから、自転車操業的に、名義書換えのために顧客から預かった証書等を譲渡担保として差し入れていたもので、犯行に至る経緯、動機においても格別斟酌すべきものはない。
被告人は、平成五年四月から同年七月までの間に、一二回にわたる横領行為を重ねていたものであるところ、その中には被害者に会員権を売却した当日に証書等を担保に差し入れて横領した事案も数件あるなど、犯行の態様も悪質であり、被害総額は時価合計一億五六〇〇万円余りと高額に上っており、結果も極めて重大である。
さらに、本件後、被告人及びその経営する会社はいずれも破産宣告を受けており、被害の弁償は、被害者一二名に八万三〇〇〇円ずつ支払ったほかには、なんらなされていない。
以上のような本件犯行の罪質、動機、態様、結果等に照らすと、被告人の罪責は重いというべきである。
そうしてみると、被告人の主観的意図としては、被害者らの会員権を最終的に領得する気持ちは全くなく、短期間のうちに債権者から受け戻して、被害者らのために名義書換手続を行うつもりであったこと、被告人に前科はなく、本件に至るまでは会員権の売買等を業とする会社を経営し、業績をあげ、それなりの信用も築いてきており、まじめに生活してきたこと、本件に対する反省の情は顕著であること及び被告人の健康状態など、証拠によって認めることができる被告人に有利な諸事情をすべて考慮しても、被告人を懲役三年一〇月の実刑に処した原判決の量刑は、その言渡しの時点を基準とする限り、重過ぎて不当であるとは認められない。
しかし、当審における事実取調べの結果によれば、被告人及びその経営する会社の破産手続の進行次第によっては、僅かではあっても被害者らに対する被害の弁償が行われる見込みはあること、前記のとおり、A及びBの二名の被害者は、原判決の前後にわたり、Cカントリー倶楽部において、正規の会員に準ずる取り扱いで、相当回数のプレーを行っており、事実上の仮のものではあるが被害の一部が回復されたと同視し得る状況もあることなどの事情が認められる。
前記の情状にこのような原判決後の事情を併せて考慮すると、現時点では、被告人を懲役三年一〇月に処した原判決の量刑をそのまま維持するのは相当でない。
よって、刑訴法三九七条二項により原判決を破棄した上、同法四〇〇条ただし書を適用して、当裁判所において更に判決する。
原判決が認定した事実に、原判決と同一の法令を適用し(併合罪の処理を含む。)、処断刑期の範囲内で被告人を懲役三年六月に処し、刑法二一条を適用して、原審における未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入することとして、主文のとおり判決する。
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